麻布台ヒルズ×LIXIL

麻布台ヒルズ 新しい街の空間をタイルで彩る

森ビル株式会社:増沢 唯 株式会社日本設計:加藤 弘治・宇喜多 昌秀・市原 慎太郎

──今回さまざまな箇所にLIXILのタイルを採用していただいています。建材としてのタイルの可能性についてお聞かせください。

増沢氏:全てのタイルがコロナ禍にご相談させていただき検討したものです。デザイナーの要望に対し迅速にご検討・ご回答いただきました。デザイナーとのサンプル確認は国際配送を繰り返しましたが、時間短縮のためメーカーよりデザイナーへ直送いただくご協力もいただきました。特にコロナ禍は誰もが未知の状況、打合やコミュニケーションの取り方など試行錯誤し苦労しました。ロックダウンによる工場停止、輸送経路の途絶、材料価格高騰など問題が生じる中、厳しい自主検査に合格したものを全て予定通りに供給いただき感謝しております。
海外デザイナーは、日本の伝統美や伝統技術を大変にリスペクトしています。恐らく、今後のプロジェクトでも求められるポイントかと思います。新たな商品開発や品質機能を向上する取り組みに加えて、日本の人口が減少していく中、日本固有の伝統技術・技能の維持と継承、人材育成の継続を期待しております。

ガラスモザイク
ガラスモザイク
ガラスモザイク
ガラスモザイク
ガラスモザイク
タワープラザ商業ゾーンB1-1階には特注のボーダータイルの柱を配した。縦基調に艶あり、艶無しの2種類の質感の違うタイルを交互に縦基調で貼ることで、商業空間らしい柔らかさや上昇感のある動きを表現した。特にこだわった目地は 2.5mmの極細、目地色はタイルの意匠に合わせ調合した特注色
33、34階のスカイロビーのデザインコンセプトは「Garden in the Sky」
33、34階のスカイロビーのデザインコンセプトは「Garden in the Sky」。吹抜に面した手摺には白い雲のモチーフがプリントされたガラスを設け、床も同じく白いイタリア製のタイルを採用。軽やかで明るい光に満ちた空に浮かぶガーデンのような空間を目指した

デザイン意図の具現化、機能性と安全性を兼ね備えたタイルの設計

──麻布台ヒルズでは設計者としてどのように取組まれたのでしょうか。


株式会社日本設計
執行役員 第3建築設計群長
加藤 弘治氏

加藤氏:日本設計は2014年の基本計画段階から麻布台ヒルズのプロジェクトに参画しました。全街区の基本計画に1年半、その後は森JPタワー/タワープラザ/レジデンスA/ブリティッシュ・スクール・イン東京/ガーデンプラザCのある2つの街区の基本設計と実施設計を担当して約3年半、そして2019年着工時から2023年の秋まで約4年半を現場に常駐し監理業務を担ってきました。参画から約9年半という長期のプロジェクトでしたが、超大規模複合かつこれまで経験したことのない難易度の高いプロジェクトということもあり、あっという間だったようにも感じています。
低層部における緑豊かなランドスケープは麻布台ヒルズの大きな魅力の一つですが、高低差の大きな敷地を生かしながら、いかにスムースにレベル差を解消し、機能と形状、建築とランドスケープを一体的にデザインしていくかは、基本計画当初から大きな課題でした。試行錯誤を繰り返した結果、基本設計時から低層部のデザインを担当したヘザウィック・スタジオから「ネットフレーム」のデザインが提案され、これが解決への突破口となりました。その後もロンドンと東京を互いに行き来してワークショップを重ね、提案と議論を繰り返し、素材やディテールについても多くの検討を重ねた結果、他に例を見ない素晴らしい低層部の連続空間を実現することが出来ました。
形状やデザインに限らず、超大規模で複雑な今回のプロジェクトを設計する上で、我々設計チームにとって重要なキーワードとなったのが、『シームレスに繋ぐ』という概念でした。
インターナショナルスクールの外装について、当初はヘザウィック・スタジオのイメージを元に「GRC(ガラス繊維補強セメント)洗出し仕上げ」を提案していましたが、地元から既存の麻布郵便局の記憶を継承してほしいとの要望があり、タイルによる外壁に変更しました。GRC洗出し仕上げについては低層部の「ネットフレーム」で採用されています。外壁におけるタイルの採用に際しては、剝離・剥落を含めた長期的な機能性・安全性を考慮し、工場でのPC打込みタイルとしました。GRCからPCに変更したことによる外壁の重量増に対する構造対応など苦労した点も多くありましたが、LIXILさんにも多くのご検討とご協力をいただき、学校らしい温かみと素材感に溢れる、質の高い個性的な外装に仕上がりました。経年とともに、今後一層タイル独特の魅力が深まっていくことを期待しています。

──丁寧につくり込まれたインターナショナルスクールの外壁タイルについて教えてください。


株式会社日本設計
建築設計群 主任技師
宇喜多 昌秀氏

宇喜多氏:インターナショナルスクールの外壁タイルは、一見するとランダムに貼られているように見えますが、実際は数種類のモジュールを繰り返し用いて全体を構成しており、合理的且つ経済的な設計としています。 高さ60mmのタイルは45mm、120mm、245mmの3種類の幅で構成され、一番小さな幅45mmのタイルはPC板に打ち込んだ際の剝離・剥落のリスクを考慮して決められたサイズになっています。この3種類のタイルを用いて、ヘザウィック・スタジオが考案したパターンをベースに、現場レベルで色やサイズをランダムに混ぜながら、できるだけ自然に見えるようにモジュールを作成し、外壁のスパンドレル部に当てはめていきました。 タイルの仕上げとしては、ランダムボカシ、均一ボカシ、ボカシ無し、還元調釉薬の4パターンをLIXILさんに提案していただき、検討の結果、還元調釉薬による3色のタイルに絞り込みました。実物の焼き見本のタイルでスパンドレル部の見本をつくり確認したところ、3色で配色すると予想以上に柄が強い印象になったため、最終的には2色とし「淡いタイル3:濃いタイル1」の比率で構成しています。一方で、ヘザウィック・スタジオからは「もっと焼きムラを出したい」とのリクエストがあり、焼成による色幅を持たせながらも、歩掛りを考慮した濃淡の限界値を見極めるのに苦労しました。 柱出隅部のタイルの納まりはトメ加工とし、45度の断面を工場接着で貼り合わせています。貼り合わせる際に接着剤が内側にはみ出してしまいますが、そのままコンクリートに打ち込んでしまうとその部分に空隙ができ易くなり剝離・剥落の原因となるため、余分な接着剤を一つ一つ手作業により削っています。他にも幅及び色毎の番地を記した木枠の型にタイルを並べてパック加工し、PCに打ち込んだ後でバリを取るなど、いずれも高い技術を持つ職人の方々による大変に手間が掛かった外装となっています。インターナショナルスクールには多くの子どもたちが通い、外壁タイルに手を触れるため、意匠だけでなく安全面にも細心の注意を払って仕上げていただきました。

──オフィスエントランスの巨大なガラスモザイクタイルの壁面をどのように設計されたのでしょうか。


株式会社日本設計
建築設計群 上席主管
市原 慎太郎氏

市原氏:オフィスエントランス吹抜けのガラスモザイクの壁面は、高さ約9.5mで幅は約27mあり、1階・2階の二層にまたがる乾式壁を下地としているため、挙動に対応する伸縮目地をどのように入れるかなど、壁面全体の構造的な解析を含めた検討が設計のポイントになりました。
当初はデザイナーの意図を優先し、水平方向の伸縮目地を入れずに一枚の大きな壁として扱うパターンを検討しましたが、下地となる壁が高さ9.5mの乾式工法のボード壁のため、下地鉄骨を追加する必要がありました。下置きの自重受け鉄骨を設け、壁全体が面内方向にスウェイする方式を考えましたが、大規模な鉄骨下地となり本体構造やコストへの影響が大きく、水平方向の伸縮目地を無くす案は断念しました。結果、オーソドックスにフロア毎に軽鉄下地を組み、1階・2階のスラブレベルに伸縮目地を取る納まりとしましたが、デザインへの影響は最小限に留めることができたと思っています。
また、各階の床レベルで重量のある壁を支え、上部のLGSランナー部分で滑らせる機構に加えて縦方向にも適切なピッチで伸縮目地を設け壁面を分割することで、水平力が加わった場合でも壁が菱形に変形し難く、大きな地震の際にもタイルが剥離し難い設計としています。
一方、ガラスモザイクのある壁面は森JPタワーのコア部分に面して設けられており、外壁などと比べると地震時の挙動が少ない場所といえます。そのため震度7クラスの巨大地震でも構造体の層間変形角は約1/300程度となり、比較的クリアランス寸法を小さくすることが可能で、伸縮目地が目立たないシームレスな壁面を造ることができました。ガラスモザイクは一粒が15.4mm角、20個×20個で327mmのネット張りのユニットになっています。タイル間の目地幅は1mmで、原則328mmピッチで割付けていますが、タイルの目地よりも大きい伸縮目地を確保するため、ユニット間の1mmの目地幅をコンマ数ミリのレベルで調整しています。
更に、壁埋め込み金物やサイン、建具の取合い等の細かな検討を重ね、最終的には一枚の絵のようなガラスモザイクの壁を表現できたのではないかと思います。

麻布台ヒルズ 森JPタワー データ

施行事業主 施行者:虎ノ門・麻布台地区市街地再開発組合
特定建築者:森ビル株式会社
設計 設計:森ビル株式会社、株式会社日本設計
ファサードデザイン:Pelli Clarke & Partners(高層タワー)
:Heatherwick Studio(低層、インターナショナルスクール)
インテリアデザイン:Yabu Pushellberg(住宅、オフィスエントランス、スカイロビー)
施工 清水建設株式会社
延床面積 約461,770m2
階数 地上64階、地下5階
構造 S造(一部SRC造およびRC造)
用途 住宅、事務所、診療所(無床)、店舗、インターナショナルスクール、駐車場など
竣工 2023年6月
LIXIL使用商品 インターナショナルスクール 外壁タイル
・OM-5269-58-2-2/HA03RU(特注)
・OM-5269-58-1-2/HA03RU(特注)

森JPタワー 1 階 オフィスエントランス 内壁:ガラスモザイク
・トラアサ IM(特注)

森JPタワー 33・34 階 スカイロビー 内床:大形タイル
・M2.0-60W
・M2.0-12W

タワープラザ B1・1階商業ゾーン 柱壁:ボーダータイル
・IM-1520/YKR-1(特注)
・IM-1520/J2-218R-7083(特注)

取材・文/フォンテルノ 撮影/エスエス企画

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公開日:2024年05月15日